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タイの政治混乱、中国の未来映す 富の偏在根深く

記事の概要

1人あたりGDPが5,000ドルを超えた豊かな新興国であるタイで、タクシン派と反タクシン派の対立が続いている。

タイは開発独裁の時代に所得格差が拡大した。民主化後に各政権が支持を得るために補助金のばらまきを行った。これにより既得権益層は富を増やしにくくなり、階層間の対立が発生した。

開発独裁を続ける中国は格差問題を解決し、政治混乱を避けることができるのだろうか。

元の記事を読む→ 【2013年12月31日:日本経済新聞

豊かな新興国タイでなぜ政治混乱が?

ものすごく勉強になる記事なのですが、理解するのがけっこう大変でした。できだけ分かりやすく、噛み砕いて説明したいと思います。

まず、現在タイで続いている反政府でもですが、これは2006年にクーデターで大統領の座から追われたタクシン氏を支持するタクシン派と反タクシン派の対立です。

そして、タクシン派は農民とか貧しい人が多く、反タクシン派は商売人とか豊かな人が多いです。ものすごく大雑把に言うと、今タイで起こっているデモは、貧しい人VS豊かな人の争いということです。

ASEANの優等生であり、アジアのデトロイトと呼ばれる自動車産業の集積地となり、1人あたりGDPが5,000ドルを超えたタイで、なぜこんな階級間闘争が起こるのか?

この問題をジニ係数を使って説明したのが今回の記事です。

開発独裁下で進んだ格差拡大

タイは1990年代初めまでは民主化はされておらず、軍部出身者が交代で首相を務めました。そして、韓国、台湾、シンガポール、マレーシアといった他のアジアの国同様に、一党独裁下で経済開発を進める、いわゆる開発独裁の時代が続きました。

僕は開発独裁自体はアリだと思っています。貧しい国がある程度の経済発展を遂げるまでは、1つの政党の下で迅速な意思統一、政策の実現、政策の継続性が必要です。開発独裁はそれにぴったりで、50年体制下で自民党が長期に渡って政権を維持した高度成長期の日本も一種の開発独裁と言っても良いと思います。

タイで問題だったのは、開発独裁を進めて国全体を豊かにする過程で、所得格差が拡大したことです。90年代初頭のタイのジニ係数は0.5に近づいていました。

ばらまきが格差を是正

問題はここからです。下のグラフは東南アジア諸国のジニ係数の推移を表したものです。(元記事から借りてきました。すいません。)

東南アジア諸国のジニ係数の推移

ご覧の通り、90年代初頭以降、タイのジニ係数だけが継続して下がっています。なぜこんなことが起こったのか? それは政治が民主化されたからです。

民主化以降タイの各政権は、選挙民の支持を得るために国民の半分を占める貧しい農民に補助金をばらまくなどしてきました。そのことが結果的に所得の再配分となって格差が縮小し、ジニ係数が下がっていったのです。

しかし所得が再配分されるということは、富裕層の所得が貧困層に流れることであり、既得権益層が割りを食うということです。特にタクシン政権時代には貧しい層への補助が強引に行われたため、豊かな層が反タクシンで結束し、それが進んでタクシン派、反タクシン派という、民衆同士の階層対立が生まれたということです。

まとめますと、開発独裁→その影で格差拡大→政治の民主化→支持を得るためにばらまき→既得権益層の反発→貧困層VS富裕層の階層対立、という流れです。

中国で起こるか?

さて、アジアで現在でも開発独裁が続き、かつ、経済発展という面では大成功を収めているのが中国です。しかし今の中国では90年代初頭のタイと同様に、所得格差の拡大が続いています。2012年の中国のジニ係数は0.474と、タイの最悪時とほぼ同じです。

そこで今回の記事では、中国が格差問題を解決できなければタイを上回る激しい政治混乱が待っている、と結んでいるのですが。

上で説明した流れで行きますと、格差が拡大したあとで「民主化」が起こり、それが支持取りばらまきにつながり、階級間闘争という政治混乱を生み出したわけです。

つまり、タイと同じような政治混乱が起こるのは、民主化がなされることが前提です。では中国が民主化するか?するわけないでしょ。だって民主化したらタイみたいに政治混乱になるって分かってるんだから。笑

混乱を招くような民主化、自らの権益を手放すことになる民主化、中国共産党がそんなことをするわけがありません。ということで、この記事を書いた日経の記者さんの心配は杞憂と終わることでしょうw